日本は災害大国として地震や津波、火山の噴火といった自然災害に見舞われています。疫病は災害とは関係ないんじゃない?と感じるかもしれませんが、疫病の流行は自然災害の中でも「生物学系」として分類されています。
現在、新型コロナウィルスが世界中で猛威を振るっており、日本も例外ではなく多数の感染者が出ている状況です。このような状況だからこそ、疫病について理解を深めることも重要ではないでしょうか。
ということで、この記事では日本で過去に流行した疫病について解説しています。過去にはどのくらいの規模で流行していたのか知ることができますよ!あまりの酷さにドン引きする内容もあるのでご注意を・・・。
ここで紹介している疫病は過去の話ではなく、現在でも感染する可能性のあるものです。対策を講じるうえでも役立つ内容になっているので、参考にしてみてください。
出典:https://www.photo-ac.com/
目次
歴史上日本で流行した疫病①【天然痘】
最も危険な感染症の1つである「天然痘」。もともと日本には存在しないウィルスでしたが、中国・朝鮮半島からの移住が活発になった6世紀半ばに最初の流行が起こりました。
その後、735~738年にかけて西日本を中心に流行。この天然痘の流行が「奈良の大仏」を建造するキッカケの1つになったのです。
その後も幾度となく天然痘は流行し、江戸時代には誰もがかかる感染症となります。そして、明治時代には犠牲者が1万人を超えるほどの大流行が発生したのです・・・。
西暦 | 年号 | 死者 |
1885~87 | 明治18~20 | 約32000人 |
1892~94 | 明治25~27 | 約24000人 |
1896~97 | 明治29~30 | 約16000人 |
そんな天然痘ですが、1800年代になるとワクチンが開発されます。このワクチンの開発・改良により、徐々に天然痘の感染者は減っていき、1955年には日本国内での感染者はなくなったのです。
そして1980年。WHOの「地球上からの天然痘根絶宣言」により、人類史上初となるウィルスの根絶に成功しました。2020年現在、天然痘ウィルスの感染者はいません。
天然痘の感染経路と症状
天然痘は「飛沫感染」「接触感染」「空気感染」により感染します。ウィルス自体の感染力は非常に強く、感染者から落ちた「かさぶた」からでも、1年以上も感染させる持続力があります。
- 7~16日の潜伏期間を経て発症。
- 急激な40℃前後の発熱・頭痛・倦怠感が現れる。
- 発熱後3~4日に一旦解熱する。
- 顔面や頭部を中心に「発疹」ができ、全身に広がっていく。
- 発症後7~9日目に再度高熱となる。発疹は化膿しているので「膿」がでる。
天然痘は体の表面だけでなく、呼吸器や消化器にも同様の症状が現れるため、呼吸困難や呼吸不全を引き起こすことがあります。
- 2~3週間後には傷跡(あばた)を残して回復に向かう
天然痘の致死率
天然痘の致死率は20~50%と非常に高く、完治したとしても発疹が傷跡として一生残ります。想像しやすいものだと、「酷いニキビ跡」が顔中や全身に一生残る感じですね。
また、発症後7~9日目、2度目の高熱の時期が一番死亡率が高くなります。天然痘による主な死亡原因はウィルス血症、つまり、ウィルスが血液の中に入り込んで全身に移動してしまうのです。
これにより、敗血症や気管支肺炎・脳炎といった合併症が起こります。ちなみに、体にできた発疹は最終的に「かさぶた」となって落ちてしまいます。
天然痘は一類感染症
一類感染症とは、感染症法により最も危険とされる感染症として指定されているものです。
一類~五類感染症まであり、数字が少ないほど感染時に重症になりやすい危険な感染症となります。他にも、指定感染症などがあります。新型コロナウィルスがそうですね。
人類史上最大の疫病となる「黒死病(ペスト)」や、致死率が高すぎるため、海外への感染が広がる前に死亡してしまう「エボラ出血熱」も一類感染症に含まれていることから、いかに危険な疫病であるかがわかりますね。
天然痘は根絶されましたが、「天然痘ウィルス」自体がなくなったわけではありません。生物兵器として天然痘ウィルスを保持している国があると噂されているほどです。
各国が天然痘ウィルスのワクチンを備蓄していることから、警戒していることには違いありません。噂とはいえ、せっかく根絶したウィルスをまた利用するとは、人間って愚かな生き物としか言いようがありませんね・・・。
歴史上日本で流行した疫病②【結核】
日本における結核の歴史は弥生時代にまで遡るとされています。ですが、弥生時代~江戸時代までの過去において、結核が流行したとの記述は発見されておらず、1800年代になってようやく結核の歴史を知ることができます。
特に1900年代に入ってから結核は猛威を振るい、治療法が確立されていない当時では「不治の病」として恐れられていました。感染力も非常に高く1934年(昭和9年)では全人口の2%に当たる約130万人が患者となり、犠牲者は約13万人にも上りました。
その後は、治療方法の発達や予防接種の普及等により結核による被害は減少していきます。とはいえ、結核菌は根絶されたわけではなく、現在でも高齢者を中心に感染者はいます。
日本は先進国の中では感染率・死亡率ともに高い水準にあり、結核菌自体も「薬剤耐性」もつことから、結核の感染拡大が懸念されているのです。
結核は肺だけでなく全身に及ぶ
結核といえば「肺結核」をイメージしてしまいがちですが、血液を通じて全身に感染します。脳や肝臓、腸だけでなく、皮膚にまで感染するのだから恐ろしいですね。
また、結核菌は「空気感染」します。ウィルスの中でも非常に小さいため、普通のマスクでは防ぎきることはできず「N95マスク」を着用しなければいけないのが特徴です。
結核は感染した臓器の組織を破壊してしまうので、出血による呼吸困難や臓器不全を招き、最悪の場合死に至ります。
2016年には日本での結核による死者は約1900人と無視できない状況にあり、コロナウィルス(SARS・MERS)と同じ「二類感染症」に指定されている危険な感染症です。
歴史上日本で流行した疫病③【麻疹(はしか)】
日本では平安時代に流行したとされるのが最も古い記録です。その後、江戸時代には13回もの大流行が発生し、1862年には江戸だけで約24万人が死亡したとの記録があります。
近年においても麻疹の流行は起こっており、2001年には累計患者数が約28万人となる大流行となりました。これを機に、予防接種の重要性が見直されたのです。
以降は地域単位での流行はありましたが、全国的に広まることはなく2015年には「麻疹は排除状態にある」との認定を受けます。
排除状態とは、国内にいるウィルスによる感染が3年間確認できない状態のことです。海外からの持ち込みによって感染するケースがあるので、根絶したわけではありません。
ある意味最強のウィルス
麻疹は他の感染症と比べると、死亡率は0.1~0.2%と非常に低いです。ですが、感染力はとてつもなく、免疫を持たない場合、ほぼ100%の確率で感します。
また、「空気感染」「接触感染」「飛沫感染」と感染経路が豊富なうえ、予防接種しか有効な治療方法がないというオマケつきです。
死亡率の低さからでしょうか、インフルエンザ(鳥インフルエンザ・新型インフルエンザを除く)と同じ「五類感染症」に指定されています。
予防接種を行うことが重要
予防接種が確立されていない時代では、大人への通過儀礼という訳の分からない理由で、自然治癒にまかせるパワープレイに徹するしかありませんでした。
これは子供が感染しやすく、一度感染することによって免疫が付くため、二度は感染しないという特徴があったためですね。
ですが、ワクチンの普及により現代に生きる僕たちの麻疹に対する免疫力は減少しています。そのため、場合によっては二度麻疹にかかる可能性があるのです。
予防接種を一回行うことにより、95%以上の確率で免疫が付くとされています。二回の接種で99%にまで高めることができます。早めの予防接種が感染症を防ぐために重要になってくるのです。
麻疹の恐ろしさ
風邪の症状と全身に発疹ができて終わり。と、割と軽視されがちですが、麻疹の恐ろしいところは合併症です。麻疹による死亡は合併症によるものが多く、合併症は発症者の約30%と高い確率で併発します。
合併症には肺炎・脳炎になどがあり、発症者の数万人に一人と発症例は少ないのですが、亜急性硬化性全脳炎が発症すると確実に死亡します。
加えて感染力の高さ、治療方法が予防接種しかないことを考えると、麻疹は非常に恐ろしい感染症といえるでしょう。
歴史上日本で流行した疫病④【コレラ】
日本で初めて発生したのは1822年と歴史は浅いのですが、一度侵入したウィルスは大流行し、大勢の感染者を生みだしました。1862年には56万人もの患者がでたとされています。
また、1879年と1886年にはコレラによる死者が10万人を超える大惨事となりました。
コレラの脅威が収束するのは1920年代になってからで、1970年代以降は発症者の数は数えるほどになります。現在では、日本国内において珍しい感染症ですね。
とはいえ、二類感染症の次に危険とされる「三類感染症」に指定されているので注意が必要です。
コレラの危険性
先進国である日本では、治療方法の確立とワクチンの開発により死亡率は5%以下となっています。
ですが、あくまで治療をした場合で、治療をしなかった場合の死亡率は「アジア型」と呼ばれるもので75~80%になります。
激しい下痢や嘔吐による脱水症状や、体温が34℃台にまでなる低体温症が特徴ですね。
海外からのコレラ菌の持ち込みや、不衛生な食材や調理環境によっては感染の危険があります。コレラは「経口感染」によって感染するので、衛生面に気を遣うことが大切です。
歴史上日本で流行した疫病⑤【赤痢】
日本では、1897年に大流行し、9万人が感染、致死率は25%にも上ったとされています。この大流行で赤痢菌を世界で初めて発見したのが「志賀潔」です。そのため、赤痢菌の学名は「Shigella」と呼ばれているのですね。
戦後しばらくの間は患者数10万人・死者2万人を超える流行が続きます。しかし、1965年頃には感染が激減、その後も徐々に減っていき、現在では珍しい病気の一つとなりました。
この背景には、上下水道の普及があります。日本の浄水技術は素晴らしいもので、水道水が飲める珍しい国でもあります。赤痢菌は汚染された水や食品を口に含む「経口感染」により感染するので、浄水技術の発達した現代では感染の可能性が少ないのです。
反対に、上下水道が普及していない戦前・戦後では生水を使うことが多かったため、感染の可能性が高かったわけですね。
また、当時の農業では肥料に「し尿」を使用していました。感染者のし尿を肥料として使うことで、その農作物を食べた人が感染するといったことも、流行の原因の一つです。
細菌性赤痢とアメーバ赤痢
赤痢菌とは、一般的に細菌性赤痢のことをいいます。ウィルスですね。一方、アメーバ赤痢は、アメーバによって発症するため、寄生虫の部類になります。
細菌性赤痢は「三類感染症」、アメーバ赤痢は「五類感染症」に指定されています。
現在では珍しい病気となりましたが、感染例がないわけではありません。井戸水からの感染、魚介類による感染が発生しています。
コレラ・赤痢は食中毒の原因の一つなので、衛生面に気を付けることが大切です。
歴史上日本で流行した疫病⑥【梅毒】
日本では1512年に初めて記録上に登場する梅毒。江戸時代には一般庶民の感染率は50%にも上ると推測されています。
治療法が確立されていない、遊郭の登場、コンドームのない時代など、様々な理由により爆発的に感染者が増大したのでしょう。梅毒による死者も多数でたそうです。
「解体新書」で有名な杉田玄白は「1000人の患者のうち、700~800人は梅毒だった」という記述を残しています。
もしかしたら、日本の歴史史上「人口当たりの感染率」が最も多い感染病は梅毒かもしれませんね。
梅毒は現在増加している!?
梅毒は2013年から毎年増加傾向にあります(2016年には約5000件の報告有)。男性・女性共に感染が増えているので、誰もが感染の可能性がある警戒が必要な感染症といえますね。
梅毒は性行為による粘膜同士の接触によって感染します。性病だから、初期の段階では症状が軽いため等の理由で治療をしないといったケースも考えられるため、実際にはさらに感染者が増えていることでしょう。
医療の発達した現在では治療を行えば治すことができますが、治療をせずに放置するとゴムのような腫瘍ができて奇形化するだけでなく、最終的には臓器が破壊され死亡します。
また、妊婦が感染している場合には、胎児が感染した状態で生まれる「先天性梅毒」となる可能性があります。早めの治療が重要ですね。
梅毒の症状
第Ⅰ期(感染後3週間~3か月)
感染した場所、主に性器や唇・口の中にしこりができます。また、股関節周辺のリンパ節が腫れることがあります。
これらは痛みを伴わず、数週間で症状はなくなりますが、完治したわけではありません。
免疫力がアップしたことにより、皮膚から体内へ菌が移動したのです。そして、菌は増え続けます・・・。
第Ⅱ期(感染後3か月~3年)
血液の流れにより菌が全身へ移行すると、手のひらや足の裏、体全体にピンク色の発疹(バラ疹)が現れます。梅毒の特徴的な症状ですね。
他にも、口の中の炎症や、性器にイボ(扁平コンジローマ)ができる、脱毛といった症状が現れることがあります。
これらの症状は、治療をしなくても数週間で収まりますが、やっぱり完治したわけではありません。
抗生物質で治療をしない限り、菌は体内に残り続けて体の組織を破壊していきます・・・。
晩期顕性梅毒(感染後3年以上)
皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム種)が発生します。この腫瘍により、顔の形が変わるほどボコボコになることがあります。
感染後10年以上経過すると、多くの臓器に腫瘍が発生したり、心臓・脳・脊髄・神経が侵され、痴呆や運動障害などの慢性疾患となり、場合によって死亡します。
第Ⅰ期と第Ⅱ期の症状が同時に現れたり、第Ⅱ期の症状が繰り返し発生するなど、必ずしも上記の順番で発症するとは限りません。
梅毒は痛みを伴わず、放置すれば一時的に症状がなくなるため、完治したと勘違いをして治療を行わないケースがあります。
また、性病であるため打ち明けにくいことから治療を行わないケースもあるでしょう。そのため、発見が遅れてしまう可能性が高い感染症です。
現在では抗生物質の発達により、治療をすれば晩期顕性梅毒に移行することはほとんどなく、死亡する確率も稀です。が、ゼロではありません。感染が疑わしいと感じたら、早めの検査と治療を行うことが重要です。
誰もが感染する可能性のある梅毒は「五類感染症」に指定されています。
歴史上日本で流行した疫病⑦【インフルエンザ】
現在でも冬の季節になると流行するインフルエンザ。毎年1000人を超える死者をだしている恐ろしい感染症です。
中でも1918年~1921年のまでの3年間では、日本の人口の約半数(2380万人)が感染、死者は約38万人にも上ったとされています。「スペインかぜ」と呼ばれ、世界的な流行(パンデミック)となりました。
1957年には「アジアかぜ」と呼ばれる、変異したインフルエンザウィルスにより、300万人が感染、死者は5700人にも上ったのです。
インフルエンザの危険性
「五類感染症」に指定されているインフルエンザですが、恐ろしいのは変異性です。
例えば、A型インフルエンザウィルスが鳥類に感染する「鳥インフルエンザ」は、過去に家畜に接触した人間が感染しています。
今のところは人から人に感染しないので、一般人が感染する可能性は低いとされていますが、「人インフルエンザウィルス」と混じり合うことで、人から人に感染する新型の鳥インフルエンザウィルスに変異する可能性があるのです。
この鳥インフルエンザは「人に感染するもの」に限ってですが、コロナウィルスと同等である「二類感染症」に指定されています。
インフルエンザウィルスは、今まで人間に感染しなかったウィルスが突然変異により人間に感染し、さらなる変異で人から人へ感染して爆発的に感染者が増える危険性があります。
また、変異によって今まで効果的だったワクチンに耐性を持つケースがあり、この多様な変異性がインフルエンザウィルスの恐ろしいところなのです。
インフルエンザ対策にうがいは効果なし!?
インフルエンザといえば「飛沫感染」「接触感染」が感染経路です。そのため、手洗いやマスクの着用、アルコール消毒が有効とされています。
しかし、インフルエンザ対策としてうがいをすることは科学的に有効であると証明されていません。
「じゃぁ、うがいはしなくていいんだ」と感じるかもしれませんが、うがいには風邪・肺炎・気管支炎を予防する効果があります。
うがいをすることは病気の予防につながるメリットがあるので行うようにしましょう!
歴史上日本で流行した疫病⑧【新型コロナウィルス(COVID-19)】
2020年4月の時点で10000人以上が感染し、300人を超える死者をだした新型コロナウィルスは収束の気配を見せません。
「指定感染症」として全国に「緊急事態宣言」が発令され、行動の自粛を余儀なくされています。まさかこのような経験をするとは思いもしませんでしたね。
過去に流行した「SARS」や「MERS」と比較してみると、日本での致死率は2%と高くありませんが、感染力はケタ違いで爆発的な感染拡大を見せています。収束後は「二類感染症」となることが予想されていますね。
これから先、どのような展開になるかはわかりませんが、混乱により医療崩壊が起きて感染拡大へとつながることが危惧されています。
新型コロナウィルスは「接触感染」「飛沫感染」が感染経路です。手洗いやアルコール消毒、マスクの着用、不要不急の外出は避ける等の対策を行うことで早期の収束へとつながるでしょう。
まとめ
日本では、過去に様々な疫病に苦しめられてきました。現在でも流行の可能性のある感染症はありますね。
医療が発達しているとはいえ、爆発的な感染や未知の感染症には対応しきれないのが現実です。そんな時は、個々が対策を練ることで感染の拡大を防ぐことが重要になってきます。
現在では、新型コロナウィルスが猛威を振るっている厳しい時期です。行動の自粛はつまらないと感じるかもしれませんが、個々が対策を行うことにより早期の収束へとつながります。
一人でも多くの感染者や死者をださないため、自分に何ができるのかを考えてみることが大切ですね。

